高市トレード
” 高市トレード ” とは?
高市早苗氏が自民党総裁に選ばれて以降、外国為替は円安に、株式市場は株高に、そして債券市場では長期金利が上昇(長期国債価格は下落)する動きが起きたことを指しています。
結果、株式市場では、日経平均株価がついに5万円を超える最高値をつけ、為替も、1ドル=150円を上回る円安方向に。
超長期金利は急騰し、とくに30年国債利回りは、52週高値として記録された水準の3.340% を上回りました。
財政に関する考え方で政治家を分類すると、高市首相は赤字国債の発行も厭わない積極的財政出動派に属するとされています。
財政出動が大きければ、それだけ企業の受ける恩恵も大きくなると考えられ、株高になります。一方で財政に対する懸念が膨らみ、円や国債が売られ、円安になり、金利が上がります。
高市首相は、所信表明演説で、「『責任ある積極財政』のもと、戦略的な財政出動を行う」と強調しました。
高市首相のやろうとしている経済政策は、本人が言うように、かつての「アベノミクスの継承」です。
アベノミクスの政策の3本柱は「機動的な財政出動」と「大胆な金融緩和」、それに「成長戦略」でした。
しかし、力強い成長戦略は見つからず、もたらされたのは、円安と株高だけでした。
高市首相の金融政策はどうでしょう。
それは1年前「金利を今上げるのはアホや」と言った人ですから、金融緩和の方を好ましいと考える人だと思います。
その結果、アベノミクスと同じ円安と株高が高市トレードとして現れているのは、象徴的といえるでしょう。
インフレは収まらない
現在は、アベノミクスの時代とは違っています。当時の目的は、2%のインフレを引き起こすことでした。そのために ” 異次元の ” 金融緩和を進めてきたのに、結局、インフレにはなりませんでした。
インフレ期待を高めるために日銀による国債買い入れ対象に長期国債をも含めたこともあって、長期金利はずっと低下傾向にありました。
ところが現在のインフレ率は2%を超えるのが常態化しています。今やらなければならないのは、インフレを抑えることです。しかし、現在は、円安による輸入物価の高騰があって、インフレは収まりません。

物価対策が最大課題
いろんな報道機関の世論調査の結果をみると、有権者が挙げる必要な政策課題の1位は物価高対策です。
日本の物価高の原因は、はっきりしています。輸入物価の高騰です。
さらに輸入物価が高くなった原因は、一も二もなく円安です。これは官民ともにコンセンサスになっているようです。
物価高対策・インフレ対策として、与野党ともに考えられているのは、給付金だの減税だの、消費者側の救済処置がほとんどです。
なぜ、輸入物価を下げる方策を考えないのでしょう。どうすればいいか。
為替を円安から円高の方向に動かせばいい。そのためには、たとえば対ドルであれば、ドルと円との間の金利差を縮める、つまり円が利上げすることです。
10月末の日銀の金融政策決定会合は政策金利を現在の0.5%程度から 0.75%程度へ利上げのチャンスだとみられていました。でも、日銀は現状維持で動きませんでした。
高市首相は、”アホ発言 “もあってか、今回は金利について口を閉ざしていました。日銀に対する無言の圧力になったのか、日銀が忖度したのか。
強い経済とは
もっとも、利上げすれば、金利負担の増加から行き詰まる企業が出るのは間違いありません。
また、為替が円高方向に振れれば、ドル建ての円換算で生まれた決算数字の膨らみを剥ぎ取ってしまいます。
そんな低金利のぬるま湯に、あるいは円安のぬるま湯にどっぷり浸かったままのゾンビ企業は少なくないのです。
結局は、日銀にしても、政治家にしても、臆病なのか、怖いのか。ゾンビ企業に引導を渡す役割をしたくないのでしょう。
「強い経済をつくる」と高市首相は言います。重要なことです。
強い経済とはどういうことでしょう?
それは、金利が上昇しても、あるいは円高が急に進んでも、多くの企業が生き残れるような経済だと考えられます。
異常な低金利でなければ生きていけない、今のような円安でなければ生きていけないようなゾンビ企業のいない経済です。
表面だけの株高・円安に浮かれていては大事なことを見逃しかねません。